サラリーマン時代は、よく暴力団に脅されていた。不動産会社は
扱う金額が大きいので、トラブルになると暴力団がらみになる
事もしばしば…。脅される時はいつも同じ。手付金を返さない時。
不動産を購入する時は手付契約をしてから、ローンの申し込みを
して、ローンが通るとローンを実行して物件の引き渡となる。
手付金は物件総額の10%が基本。物件総額によるが、2000万円だと
200万円。そのお金を準備してもらい手付契約を結ぶ。しかし、
お客様の気持ちは移り変わるもの。手付契約を結んだ後、ローンの
審査が出る前に買いたくないと言ってくる。そうなると、買主の
一方的な解約なので、手付金は返還せず、没収される。私の会社は
マンションデベロッパー(売主)なので、会社が没収する。
買主は手付金(200万円)を没収されるのが惜しくなる。そうなると
知人、友人へ相談する。相談者の中から「どうにかしましょう」と
言う人が出てくる。その人が、私のところへ直接電話をしてくる。
大きな声で「君、このままだと大変なことになるよ!」と言ってくる。
私はビクビク。しかし、会社は返さない。私は脅されるという日々が続く。
直の上司に相談しても、知らない顔をされるだけ。悩まさる日々が続いた。
仕方なく、(毎回は相談できないが)上司を飛び越して、幹部で大学の
先輩へ相談する。なんとか返金できるようはからってもらい、安堵すると
いった具合だ。

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入社5年ぐらいまで、手付金問題には悩まされた。
「大きな声で、心が凍る厳しい言葉で脅される」のだ。怖くてたまらない
日々だった。しかし、ある事件から私は変わった。その話をしたい。

新しく支店を開設し、私は鹿児島へ転勤した。鹿児島支店は6名。
営業社員は4人。私は営業の責任者。上司は所長のみ。所長は総務経理を
担当していた。

ある日の昼。鹿児島支店の事務所に暴力団と思われる方がやってきた。
大きな声で、机を叩きながら「おたくらが建設中のマンション工事音が
ガンガンとうるさくて、寝不足だ。どうしてくれるのだ。」と言う。
社員全員凍りつく。怖い。何回も同じことを言って、机をガンガン叩く。
「どうしてくれるんだ!」と言う。誰もなるべく知らない顔をするが、
心は怖くてたまらない。誰か相手をせねばと思い、私が応対する。
しかし、3m以上近づけない。机をガンガン叩いているので、私が近寄ると
叩かれそうなのだ。しかし、片言で応対した。
次の日も同じ時間に来て1時間以上大きな声を出して暴れる。
なんとかしたいが怖い。暴力団が事務所に来だして3日目。同じように
私は応対をしたが、やはり大きな声を張り上げてくる。言っている事も
同じだし、所長が本社へ近隣交渉費を○○万円出してもらう様に交渉中で
あることも知っていたので、3mの距離を狭め、殴られる覚悟で近づき、一言
「大きな声で机を叩いて言わなくても、仰っている事は良く聞こえています。」
と言ってみた。テーブル越しではあるが、かなり近づいて言った。
この言葉に激怒して「殴ってくるかな…。」と思ったが、その人の心が
「少しひるんだ」様に感じたのだ。私はとっさに感じた。殴るのが
目的ではなく、脅して金を貰いたいのだと。目的はお金なのだ。
この人たちは机を叩いて威嚇はするが、人は殴らないのだと感じ取った。
今までも、電話先や店頭では大きな声で威嚇するが叩かれたことは無かった。
近づいても大丈夫なのだと気づいた。そして、もっともっと近寄って
「お座り下さい。普通の声の大きさで話して下さい。」と言ってみた。
すると、すんなり言う通りにしてくれた。この時に暴力団の威嚇に負けると、
先方の言いなりになってしまう。「正々堂々と対応すればいいのだ!」と
気づいた。

考えてみれば叩いたら厄介なのは彼らなのだ。叩いたら、私たちは警察へ
即連絡し、彼らはすぐに捕まる。そして、留置させられ、罰金も来る。
前科も付いてしまう。得は何もない。心理作戦で私たち心を威嚇し、
殴ると見せかけて、いくらか取ることが一番の目的なのだ。

次の日も次の日も来たが同じ対応を私は続けた。1週間後本社より連絡が
来た。回答は、「1円も払うな!」と言う厳しいものだった。さすがに、
私もどう伝えるかは悩んだが、伝えるしかない。
同じように暴力団の男は現れた。私は「本社から通達がありました。
結論は、お払いするお金は準備できない、と言う内容でした。」と
伝えた。この時は、激怒して大きな声で叫びに叫んだ。しかし、一歩も
ひるまず「お払いするお金はありません」と言い続けた。
この時はドキドキだったが、私が気づいた理論は正しいと思い続けた。
次の日も、その次の日も暴力団の男は現れた。しかし、3日目からは
来なくなった。「私は、勝利した。」そんな気持ちでいっぱいになった。
それから私は、暴力団の男がプロレスラーか相撲取りの様な大男が
現れようと、正々堂々と毅然たる態度で臨むことができる様になった。
大男だと、少し心は不安になるが「私の理論は正しいはずだ!」と
思う様にしている。

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会社を開業してからすぐの頃は、このような方達が福一不動産の事務所へ
嫌がらせで来ることがあった。やはり大きな声で叫ぶ。その時は、お客様の
迷惑にならない、事務所の裏にある会議室へ移ってもらう。
そして、できるだけ近寄って言う。「お座り下さい」「普通の声の大きさで
話して下さい。聞こえますから」と言って、すぐ横に座り話を聞く。
威嚇が通用しない事を伝える。その後は、正々堂々と毅然たる態度で臨む。
ある程度の時間は頑張るが「福一の社長は、脅してもダメだ!」という顔を
して帰る。最近は、その業界の方達は来なくなった。

最近は、講演を受けることがある。私達のテリトリーは、西日本一の歓楽街「中洲」。
半径500mの狭いエリアで、客層をスナック・クラブ・キャバクラと居酒屋に絞って
いると言うと、講演後の質疑応答で聞かれる。「暴力団対策はどうしていますか?」と。
上記の様な内容で回答をする。不思議そうな顔をされるが、この通りなのだ。
この暴力団対策を知らなければ、脅され騙され早く会社潰れていたかも知れない。
今思えば、サラリーマン時代の経験が起業してからの私には大きく役立った。